第40期

齋藤哲志さん

フランス パリ第二大学
(北海道大学大学院 法学研究科 比較法・フランス法専攻 准教授)
2009年9月~2010年9月

2009年9月から2011年9月まで、フランス・パリ第二大学で在外研究に従事する機会を得ました。村田海外留学奨学会には、多大な援助を頂戴し、厚く御礼を申し上げます。

私の専攻は「フランス法」です。「日本法」という科目は日本にはなく、あったとすればこれを専攻する者は日本で起きているすべての法現象を知っていなければならない、したがって「フランス法」などという看板を掲げることは到底不可能であって、羊頭狗肉となること請け合いだ、などとよく揶揄されます。私の留学は、この限界を克服するためのものだった... などと言えればいいのですが、それほど生易しいものではありませんでした。

まずは言葉です。留学生活は、教授に対して下手なフランス語で懸命に表現したのに軽く無視されたことから始まりました。英語でのやり取りという屈辱のおまけ付きです。マイナスからのスタートでした。

また、外国人が抱く異国の法への思いは、直ちには了解されませんでした。私の研究課題は「自分に帰属すべき物や価値を他人から返還させる法理の如何」です。日本の業界に身を置いていればこの問いがどの文脈に接続するかはさほどの説明を要しません。しかし彼の地ではそうではありません。実際的思考に拠る部分が大きいフランスの法学は、期せずして他人の元に移ってしまった物・価値の返還は、それを惹起させた事象の後始末でしかないと考え、この問題に理論的関心を向けません。

言葉の壁と学問作法の壁という二重の障壁に失意の日々を送る中で、転機をもたらしてくれたのは友人です。言葉も出来ないのに理論ばかり言い募る外国人に付き合ってくれる人も皆無ではありません。彼らとの交流の中で、自分の言語を更新することができ、またフランスの法学のあり方を体感することができたことは望外の喜びでした。

研究について言えば、フランス法は上記の問いに対してなぜ理論を構築しなくてもやっていけるのか、逆になぜ日本法は理論に傾倒するのか、という新たな課題が見出されました。この種の思考の往還を続けて行くことができるならば、「フランス法」の看板は誇大であるとしても、「日本におけるフランス法」を標榜することは許されるかもしれません。

以上に要約した遍歴を可能としてくれたのは、村田海外留学奨学会のきめ細かなバックアップであったことは言うに及びません。村田会長を初め事務局の皆様に深甚の感謝を申し上げます。ありがとうございました。