第49期
鎌田彩花さん
(東京大学大学院 工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻)
2018年10月~2020年9月
私は、2017年10月から英国・ケンブリッジ大学に博士課程学生として留学しています。2018年から2年間、第49期奨学生として村田海外留学奨学会に支援をいただきました。留学先では化学科に所属し、タンパク質の凝集体を使った新規材料の開発を行っています。
ケンブリッジ大学に留学を決めたのは修士の間に交換留学でスウェーデンに行き研究を行ったことがきっかけでした。私は工学・機械系の出身なのですが、当時受け入れて下さった機械系の指導教官が化学科の先生との共同研究の機会を与えて下さり、それをきっかけに化学系、特にタンパク質を使った材料の研究に興味を持つようになりました。修士の卒業後もこのような学際的な分野で研究を続けたいと思い、ケンブリッジ大学化学科のTuomas Knowles教授の研究室で博士課程をすることに決めました。先生は物理科と化学科両方で教授職をしており、そのため学生も化学・生物・物理・情報科学・工学など本当に幅広い分野から集まっています。また、ケンブリッジ大学はタンパク質の構造解析でノーベル賞を取るなど歴史的にこの分野に優れており、さらに化学科にはタンパク質の研究に特化したCentre for Misfolding Diseasesという研究センターもあることが進学の決め手になりました。
留学を始めてみて、特に最初の1年は化学科に所属しながら化学の知識を全く持ち合わせていないことにとても苦労しました。ケンブリッジ大学の博士課程はコースワークが必須ではないので試験はないのですが、研究室の全体ミーティングで理解できないことが多く博士号取得までたどり着けるか不安になる時もありました。幸い、一緒に研究をしていた他の学生や博士研究員の人がとても親切に助けてくれ、1年目の終わりごろには少し気持ちに余裕をもって研究に取り組めるようになりました。特にこの1年目の間に村田海外奨学会の奨学生として採択していただき、2年目以降金銭的な心配がなくなったのは大きな支えになりました。
研究が軌道に乗り出した2年目以降、私が研究室の博士研究員の人と行っていた研究を一部スタートアップの会社としてビジネスにする動きが始まりました。博士課程の間に行う研究が起業に結びつくとは始めた当初全く予想していなかったのですが、結果的にとても貴重な経験になりました。私はもともとアカデミア志向だったのですが、これを機にアントレプレナーシップなど新たな分野を勉強するようになり、産業界での研究をすすめていくことに興味を持つようになりました。この点においても、ケンブリッジ大学には理系の学生を対象としたアントレプレナーシップの集中コースがあり、在学中にサイエンスに特化したビジネス教育を受けられこと、そして様々なベンチャー企業の方と知り合えたのは幸運であったと思います。
生活面においても、ケンブリッジは学生にあふれた町でとても快適に過ごすことができました。オックスフォード大学と同様にケンブリッジでもカレッジ制度があり、私も最初の1年間は寮生活を行いました。寮では他の学生と共同生活をするほか、フォーマルホールと呼ばれる晩餐会が毎週あり他の人と交流する機会が多く与えられていました。学科でも研究発表会など社交の場が設けられていて、このような機会を通して仲のいい友達を作り、博士課程の間お互いに支え合うことができました。また、医療面でもカレッジの近くにGP(イギリスのかかりつけ医制度です)があり、気軽に相談できる環境が整っていました。一方、ケンブリッジは家賃がロンドン並みに高いと言われており、私のカレッジの部屋(キッチンは共用)も月700ポンド以上(月11万円程度)したので、奨学金をいただけたことが本当に助けになりました。
留学を通して、ケンブリッジ大学で研究の基礎知識はもちろん、研究以外でも産業界とのつながりが持てたり、多くの卒業生に出会うことができたりと自分のキャリアのロールモデルとなる人に多く出会えたのは本当に貴重であったと思います。卒業後はマリーキュリーフェローシップという欧州連合の博士研究員のための助成金に採択していただくことができたため、アカデミアとインダストリーの両方に所属して引き続き英国にて研究を行っていく予定です。
最後になりましたが、博士課程の間手厚い支援をいただいた村田海外奨学会の皆様に深く感謝申し上げます。特に最後の1年はパンデミックの影響で全く違う年になったにも関わらず、今まで以上に柔軟な支援をいただき、また事務局の方から度々メッセージをいただきとても励みになりました。これからも多くの方が村田海外留学奨学会の支援を受けて海外大学に挑戦されることを願っております。