第39期
笠木映里さん
(九州大学大学院 法学研究院 社会保障法専攻 准教授)
2009年9月~2010年9月
私は、2008年から2010年まで、フランスのパリ第十大学において在外研究の機会をいただきました。以前からフランス法と日本法の比較を研究関心の一つの軸に設定していた私にとっては、フランスに住んで専門家の助言を得ながら研究活動をする機会を得ることは長い間の目標でした。
研究のテーマは「補足的医療保険」で、これは、一言でいえば、社会保障がカバーしない医療費について市民が任意で加入する私保険のことです。歴史的な理由等から、フランスではこの私保険が国民の9割以上をカバーし、第二の社会保障のような性格をもっており、日本でいう私保険とはずいぶん性格が異なります。このテーマは、さらに遡れば、社会保障と私的保険の境界、それぞれの役割という、より大きな問題へと行き着くものです。
私がパリにいた2008年~2010年は、世界不況で多数の失業者が発生し、どちらかというと暗く排外的な雰囲気が漂っていました。慣れない生活とフランス語に悪戦苦闘する中で、フランス社会について、また、日本社会について、多くのことを考えました。お洒落なイメージのあるフランスですが、パリでの実際の生活は、毎日がちょっとしたいざこざやトラブルの連続でした。日本に比べて多くの移民がおり、民族的文化的背景の異なる人々が共に暮らすフランスでは、何も言わなくてもわかり合える日本のようなスムーズな生活は期待できません。主体性が無いとか、自己主張をしないなどと悪口を言われることのある日本人ですが、フランスでは、むしろ常に自己主張していなければ踏みつぶされてしまう社会の厳しさを感じ、国民性の違いの背景の一端を理解できたように思います。
留学中、村田海外留学奨学会には、常に万全のサポートをしていただきました。特にフランス語に苦しみ続けた私にとっては、フランス語の個人レッスンの費用をご支援いただいたことが大変有り難かったです。事務局の方とのメールのやり取りでは、いつも温かいお言葉をいただき、励まされました。この場を借りて御礼を申し上げます。