第39期
海老原章記さん
(東京大学 理学部 生物化学科 4年)
2008年9月~2010年8月
私は2008~2010年の間、村田海外留学奨学会の支援を受け、米国ロックフェラー大学に大学院生として滞在しました(2011年現在、引き続き大学院生として研究を行っています)。ニューヨークのマンハッタン島に位置するロックフェラー大学は学部をもたないいわゆる大学院大学で、その大学院も1学年20~30人という非常に小規模なものですが、2011年現在23名のノーベル賞受賞者を輩出しており、生物医学分野においては世界でもトップレベルの研究機関です。私の研究テーマは脳における顔認識機構で、Winrich Freiwald教授とMarcelo Magnasco教授の指導のもと、電気生理学的神経活動記録、機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging, fMRI)、数理モデリングから分子生物学的手法までを援用した学際領域的なアプローチで神経回路メカニズムの解明に取り組んでおります。
米国の研究において顕著であるのは、情報の伝達が非常に速いということ(論文になる前の未発表データを見聞する機会が多い)と、共同研究が盛んであるという点であり、これらは私が留学を志した動機の一つともなっています。前者は競争の激しいアカデミアを勝ち抜いていくために必須であり、後者は視野の狭くなりがちな研究生活において新鮮な意見を交換し合ったり、別分野の技術を応用したりするために重要です。私も2009年にカリフォルニア工科大学の共同研究者であるDoris Tsao教授のもとに約1年間滞在し、様々な技術や知識を交換する有意義な時間を過ごすことができました。
しかし、研究レベルが高く競争が激しいからといって、プレッシャーの下で1日中仕事をしているわけではありません。米国の研究者は教授も含めてメリハリをつけるのが上手で、休日は仕事を忘れて自分の好きなことをする人が多いです。また、ラボメンバー間および教授とラボメンバーの心理的距離が近く、特に理由がなくても皆で食事に行ったり、週末にダウンタウンに繰り出して飲みに行ったりすることもしばしばです。おそらく年齢差を日本ほど気にせず、厳格な敬語の使い分けが存在しない文化がこのような良い関係を作り出しているのでしょう。もちろん研究室によって違いはあるはずですが、このことが精神面だけでなく、実際の研究においてプラスに働いていることは間違いありません。
最後になりますが、村田海外留学奨学会の事務局の方々にはいつも私のわがままな要望に丁寧に応対していただき、心より感謝を申し上げる次第であります。今後とも、1人でも多くの日本人研究者が海外で貴重な体験をし、日本、そして世界の研究の発展に貢献していくことを願ってやみません。