第46期

渡辺和誉さん

英国 ブリストル大学
(京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻 研究員)
2016年4月~2017年3月

留学を志したきっかけは、英語圏で研究生活を送ってみたいとの思いでした。科学の世界は、英語がコミュニケーションの基本ツールです。世界に向けて成果を発信するためには学会発表でも論文執筆でも英語で行う必要があります。そのため、「英語で研究の議論をする」という経験を積む機会を探し続けていました。他にも、イギリスは近代科学発祥の地の一つであるので、その文化的気風に触れてみたいという気持ちもありました。

私の所属は化学科でしたが、イギリスの大学は、日本に比べて安全性への意識が非常に高いと感じました。一人での実験は固く禁じられている上、すべての合成実験は事前に指導教員と議論して認可をもらう必要があります。どちらも不測の事態に備えた処置です。こういった配慮は日本の大学では積極的に行われていないので、特に印象深く受けとめました。その代わり、研究環境は不自由でした。大概の学生は午後6時を回ると帰宅してしまうので、夜まで実験したいときは事前に誰かに残るよう頼まねばなりません。うまく見つかったとしても、やはり時間は限られます。有機合成や測定は、深夜まで作業が長引くこともままあるため、この環境にはやりづらさを覚えました。

博士課程と聞くと研究尽くしのイメージですが、イギリスの博士課程の学生は余暇を十分楽しんでいて、とても生き生きしていました。前述のように、夕方からきっちりオフに切り替える習慣が根付いているのも一つの要因でしょう。一日を研究や仕事だけに費やすのではなく、いわゆるアフターファイブを日々しっかり送っていたようです。徹夜などもっての外です。ほかにも、学位取得後に休暇をとって半年間旅行したり、研究とは縁遠い職に短期で就いてみたり…。間断なく勉強・研究を続けることが当たり前な日本の気風とは大きく異なります。このような選択が許容される空気を肌で感じられたのはカルチャーショックであり、それゆえとても有意義な経験だったと思います。

留学中のつらかった話も少し。イギリスでは、自分の能力に枷を嵌めているような気持ちを常々感じていました。実力を存分に発揮できていないという感覚です。原因は英語力でした。日常会話と研究議論の間には決定的な差があり、世間話はなんとかなっても突っ込んだ議論になると上手く回らないことが度々あったのです。言いたいことをうまく表現できない/相手の発言の意図をきちんと汲み取れない、というのは思っていた以上にストレスフルな体験でした。議論がかみ合わず、無力感に苛まれることも多かったです。イギリスに7年も住み、博士号まで取った友人も同じような感想を述べていたので、多くの日本人留学生には共感してもらえる話ではないかと思います。

それでも、帰国直前にはまだまだイギリスに居たいという気持ちが強くありました。上手くいかないこと・不便なことは多かったのですが、それを考慮しても十分に魅力的な国だったのです。よい友人や仲間に恵まれたことも大きかった。イギリスで過ごした2年間は、私にとって大変重要な期間であったことは間違いありません。機会を見つけてまた訪れたいと思います。

奨学金の経費等は柔軟に対応していただけて、研究に必要なものを揃えるのに困ることはありませんでした。一方、イギリスは日本よりも物価が高いため、生活費が足りずに困ることもありました。生活費にも研究経費にも使える、弾力的な資金枠があるとその時々の状況に柔軟に対応できるようになると思います。総額としては、1年間(または、2年間)の留学を滞りなく行うのに十分な支援をいただけたと感じており、このような貴重な機会をくださったことに大変感謝しています。