第48期
天児由佳さん
(千葉大学大学院 医学薬学府 先端創薬科学専攻 博士3年)
2017年4月~2018年3月
私は、2017年4月より、ハーバード大学化学科のChristina Woo教授の研究室に博士研究員として在籍しています。大学院では有機合成化学の研究を行っていましたが、博士号取得後は、有機化学をツールに用いて生命現象を研究するケミカルバイオロジーの研究に携わりたいと思い、ケミカルバイオロジー研究が盛んなアメリカへの留学を希望しました。
ケミカルバイオロジーの中でも研究分野は多岐に渡りますが、私は細胞の中のタンパク質を網羅的に解析するプロテオミクスの研究を行っています。臨床現場で用いられている医薬品の中には、「とりあえず病気を治療できることはわかっているけれど、どのような生体分子と相互作用して効果を発揮しているのかよくわからない」というようなものが意外に多く存在します。このような医薬品の詳細な作用機構がわかれば、より安全で効果的な医薬品の開発に繋がるだけでなく、病気そのものの理解も深まります。私は、実際に臨床現場で用いられている低分子医薬品に化学的修飾を施して「目印」を付け、その目印を手掛かりに、プロテオミクスの技術を用いて、細胞の中でその医薬品と相互作用しているタンパク質を見つける研究を行っています。
指導教官のWoo教授は、2016年に研究室を立ち上げたばかりの超若手PIです。アメリカを始めとする多くの海外の大学では、研究室立ち上げから5、6年後にテニュア審査があります。審査では主に研究業績を評価され、テニュア審査に通らなかった場合はその大学を去らなくてはいけないため、若手PIは必死の数年間を過ごします。ケミカルバイオロジーは有機化学と関連が深いと言えど、私にとっては全く新しい分野であったため、テニュア審査前の若手PIの研究室に留学すれば否が応でも一緒に必死にならざるを得ず、また、年齢が近ければ比較的近い距離感で指導を受ける事ができ、短期間で多くのことを学べるだろうと期待して、若手PIの研究室を選びました。結果は期待通り、特に最初の1年半程はひたすら実験と勉強に追われる毎日でとても大変でしたが、多くの知識や技術を学ぶ事ができ、今では大学院生の指導や、文献紹介なども楽しんで出来るようになりました。ケミカルバイオロジーのバックグラウンドが全く無かった私を受け入れ、プロジェクトをゼロから任せてくださったWoo教授には、とても感謝しております。
ボストンは、ハーバード、MITなどトップスクールが集まる学術都市として有名ですが、文化的にもとても魅力的な街です。小澤征爾さんが音楽監督を務めたボストン交響楽団の他、ボストン・バレエ、ボストン美術館、また、全米トップクラスの音楽院であるバークリー音楽院やニューイングランド音楽院などもボストンにあり、その他にも多くの合唱団やオーケストラなどが活動しています。私は子供の頃から音楽、特に歌が好きで、昨年の9月から地元の合唱団に参加して歌っています。研究生活ではなかなか出会う機会がない様々なバックグラウンドの人と一緒に音楽を作ることはとても楽しく、また、現代のアメリカ人作曲家の曲を演奏する機会も多いため、アメリカの文化や歴史にも触れる事ができ、とても貴重な体験になっています。
留学を通して、研究のみならず、あらゆる面で貴重な出会いや経験をする事ができました。私は、奨学金を得ることが研究室の受入れ条件だったため、文字通り、村田海外留学奨学会のご支援なしでは留学は成り立ちませんでした。経済面のみならず、渡米前から奨学金受給終了後も事務局の皆様から励ましのお言葉を頂き、温かいご支援に感謝の気持ちでいっぱいです。村田海外留学奨学会は、分野や在籍課程などに関係なく、留学を希望する多くの人にチャンスを与えてくださる稀有な財団だと思います。今後も、留学を志す一人でも多くの人が、村田海外留学奨学会のご支援の元、海外で活躍されることを願っております。